赤ちゃんとママをつなぐ「さい帯」って何？役割と出産後の流れを分かりやすく解説

妊娠中のママやパパにとって、「さい帯」は「へその緒」として知られる、赤ちゃんとママをつなぐ大切な命綱です。その役割や出産後のことまで、詳しくご存知でしょうか？この記事を読めば、お腹の赤ちゃんに酸素や栄養を届けるさい帯の重要な役割から、妊娠中に起こりうる「さい帯巻絡」などのトラブルと対処法、出産時のさい帯カットの流れ、そして再生医療で注目される「さい帯血」の価値と公的バンク・民間バンクでの保管方法まで、網羅的に理解できます。さい帯に関する正しい知識は、妊娠中の不安を和らげ、出産という大切な瞬間に安心して臨むための助けとなるでしょう。

さい帯は赤ちゃんの命綱 へその緒との違いを解説

妊娠中、お腹の赤ちゃんとママは「さい帯」という特別な管でつながっています。このさい帯は、赤ちゃんがママのお腹の中で健やかに成長するために不可欠な、まさに「命綱」ともいえる大切な器官です。一般的には「へその緒」という呼び名で広く知られていますが、具体的にどのようなもので、どんな構造をしているのでしょうか。まずは、さい帯の基本と「へその緒」との違いについて詳しく見ていきましょう。

「さい帯」と「へその緒」は同じもの

結論から言うと、「さい帯（さいたい）」と「へその緒（へそのお）」は、呼び方が違うだけで同じものを指します。「さい帯」が医学的な正式名称であるのに対し、「へその緒」は古くから使われている一般的な呼び名です。この記事では、分かりやすさを重視しつつ、基本的には正式名称である「さい帯」という言葉を使って解説していきます。

さい帯は、ママの胎盤と赤ちゃんのへそをつないでいる白いロープ状の管です。この管を通して、赤ちゃんは成長に必要なすべてのものをママから受け取っています。

さい帯の構造と特徴

赤ちゃんの命を支えるさい帯は、どのような構造になっているのでしょうか。その中には3本の血管が通っており、それらを保護する特別な組織で覆われています。

血管の種類	本数	役割
さい帯静脈	1本	胎盤から赤ちゃんへ、酸素と栄養が豊富な血液を送る。
さい帯動脈	2本	赤ちゃんから胎盤へ、二酸化炭素や老廃物を含んだ血液を送る。

これら3本の重要な血管は、「ワルトン膠質（こうしつ）」というゼリー状の弾力性のある組織によって保護されています。このワルトン膠質があるおかげで、赤ちゃんがお腹の中で動いても、さい帯内の血流が簡単に途絶えることのないよう、血管が圧迫されたりねじれたりするのを防いでいます。

さい帯の長さや太さには個人差がありますが、一般的に妊娠後期には長さ約50〜60cm、太さ約2cmほどになります。また、非常に重要な点として、さい帯には痛みを感じる神経は通っていません。そのため、出産時にさい帯をカットする際、赤ちゃんもママも痛みを感じることはありませんので安心してください。

お腹の赤ちゃんにとって重要なさい帯の3つの役割

さい帯は、ママと赤ちゃんをつなぐ単なる管ではありません。お腹の中で赤ちゃんが健やかに成長するために不可欠な、生命維持を担う3つの重要な役割を持っています。ここでは、赤ちゃんの「命綱」ともいえる、さい帯の具体的な働きを詳しく解説します。

赤ちゃんへ酸素と栄養を届けるパイプライン

お腹の中の赤ちゃんは、自分で呼吸をしたり食事をしたりすることができません。そのため、成長に必要なすべての酸素と栄養は、ママからさい帯を通して供給されます。さい帯の中には「さい帯静脈」という血管が1本通っており、この血管が胎盤を通してママの血液から受け取った新鮮な酸素や、成長に欠かせないブドウ糖、アミノ酸、ビタミンといった栄養素を赤ちゃんに届ける重要なパイプラインの役割を果たしています。

さい帯の中には、酸素や栄養を運ぶ「さい帯静脈」のほかに、赤ちゃんから出た老廃物を運ぶ「さい帯動脈」が2本あり、合計3本の血管がゼリー状の物質（ワルトン膠質）に守られながら束になっています。これらの血管が連携することで、赤ちゃんの生命活動が支えられています。

血管の種類	本数	血液の流れ	主な役割
さい帯静脈	1本	ママ（胎盤） → 赤ちゃん	酸素と栄養素を赤ちゃんに届ける
さい帯動脈	2本	赤ちゃん → ママ（胎盤）	二酸化炭素や老廃物をママへ送る

赤ちゃんからの老廃物をママへ送る排出路

赤ちゃんに栄養を届ける一方で、さい帯にはもう一つ大切な役割があります。それは、赤ちゃんが体内でエネルギーを使った後に出る二酸化炭素や尿素などの老廃物を、ママの体へ送り返す排出路としての機能です。この役割を担うのが、さい帯の中を2本通っている「さい帯動脈」です。赤ちゃん側の不要な二酸化炭素や老廃物をさい帯動脈が胎盤へと運び、そこからママの血液を介して、ママの肺や腎臓の働きによって体外へ排出されます。この絶え間ないガスの交換と老廃物の排出によって、赤ちゃんが過ごす子宮内の環境は常にクリーンに保たれているのです。

ママの免疫を赤ちゃんに届けて病気から守る

生まれてすぐの赤ちゃんは、まだ自分自身で病気と闘うための免疫機能が未熟です。しかし、生後しばらくは風邪などをひきにくいと言われています。これには、さい帯が大きく関わっています。妊娠後期になると、ママがこれまでの人生で得たさまざまな感染症に対する免疫（抗体）が、胎盤とさい帯を通じて赤ちゃんへと送られます。この抗体は「免疫グロブリンG（IgG）」と呼ばれ、赤ちゃんはママからこの免疫を受け取ることで、生まれてから数ヶ月間、さまざまな病原体から体を守ってもらうことができます。これを「受動免疫」と呼びます。

このおかげで、赤ちゃんは外の世界の細菌やウイルスに対する抵抗力を持った状態で生まれてくることができます。ただし、このママからもらった免疫は永続的ではなく、生後6ヶ月頃から徐々に失われていくため、その後は赤ちゃん自身がワクチン接種などを通じて自分の免疫を獲得していく必要があります。

知っておきたい妊娠中のさい帯トラブルと対処法

赤ちゃんの命綱であるさい帯ですが、妊娠中や分娩時にトラブルが起こる可能性もゼロではありません。しかし、その多くは妊婦健診で発見され、適切に管理することができます。過度に心配する必要はありませんが、どのようなリスクがあるのかを知り、万が一の際に落ち着いて行動できるように備えておくことは大切です。ここでは、代表的なさい帯のトラブルとその対処法について解説します。

さい帯巻絡（さいたいけんらく）

さい帯巻絡とは、さい帯が赤ちゃんの首や体、手足などに巻きついている状態のことです。特に首に巻きついている場合、「へその緒が首に巻いている」と説明されることが多く、心配になるママも多いかもしれません。

原因は、赤ちゃんが子宮の中で活発に動き回ることによるもので、珍しいことではありません。妊婦健診の超音波（エコー）検査で指摘されることもありますが、赤ちゃんが動くことで自然に取れることもよくあります。

ほとんどの場合、さい帯はゆるく巻きついているだけで、血流が妨げられることはありません。そのため、妊娠中にさい帯巻絡が見つかっても、特別な処置は行わず経過観察となるのが一般的です。分娩時に赤ちゃんが下がってくることでさい帯が強く圧迫されるリスクは稀にありますが、その際は分娩監視装置で赤ちゃんの心拍数を注意深くモニタリングし、異常があれば速やかに吸引分娩や緊急帝王切開などの医療処置が行われます。妊婦さん自身にできる予防法はないため、定期的な妊婦健診をきちんと受診し、医師の指示に従うことが最も重要です。

さい帯下垂・さい帯前置

さい帯下垂やさい帯前置は、さい帯が赤ちゃんより先に子宮口の近くまで下がってきてしまう状態を指し、迅速な対応が必要となる危険なトラブルです。破水した際にさい帯が赤ちゃんより先に腟内に飛び出してしまう「さい帯脱出」につながる可能性があります。

トラブルの種類	どのような状態か	主なリスク
さい帯前置（さいたいぜんち）	赤ちゃんを包む卵膜が破れる「破水」の前に、さい帯が赤ちゃんの体（頭や足など）より低い位置にある状態。	破水した際に、さい帯が先に腟内に脱出する「さい帯下垂」に移行する可能性が高い。
さい帯下垂（さいたいかすい）	破水と同時に、または破水後に、さい帯が赤ちゃんより先に腟内に脱出してしまう状態。	赤ちゃんの体と産道との間にさい帯が挟まれて圧迫され、赤ちゃんへの酸素供給が止まってしまう、極めて危険な状態。

これらのトラブルは、骨盤位（逆子）や多胎妊娠、羊水過多、前期破水などが原因で起こりやすくなると言われています。さい帯前置は妊婦健診で診断されることがあり、その場合は破水に備えて入院管理となったり、予定帝王切開が選択されたりします。

万が一、自宅などで破水した際に、何か紐のようなものが外に出てきた、あるいは腟内に触れる感覚があった場合は、さい帯下垂の可能性があります。これは一刻を争う緊急事態です。すぐに救急車を呼び、さい帯の圧迫を少しでも軽減するために、四つん這いでお尻を高く突き上げる姿勢（胸膝位）をとって救急車の到着を待ってください。病院では、赤ちゃんの命を救うために緊急帝王切開が行われます。

さい帯のねじれや結び目（真結節）

さい帯は元々ゆるやかにねじれていますが、これが過度にねじれる「過捻転（かねんてん）」や、赤ちゃんが動き回る過程でさい帯に本物の結び目ができてしまう「真結節（しんけっせつ）」というトラブルが起こることがあります。

真結節は、妊娠初期に羊水の中で赤ちゃんがでんぐり返しをする際などに偶然できてしまうもので、予防することはできません。超音波検査で偶然発見されることもありますが、確定診断は難しいとされています。

多くの場合、結び目はゆるく、血流に影響を与えることはありません。しかし、稀に分娩の際などに結び目が固く締まってしまうと、さい帯の中の血流が途絶え、胎児機能不全や、最悪の場合は子宮内胎児死亡につながる危険性があります。これを妊婦さん自身が予測したり予防したりすることは不可能です。だからこそ、「胎動が急に少なくなった」「いつもと比べて明らかに動きが鈍い」など、赤ちゃんの様子に変化を感じた場合は、自己判断せずにすぐに産院へ連絡し、指示を仰ぐことが非常に大切です。

出産時のさい帯の扱われ方とカットの流れ

十月十日（とつきとおか）の妊娠期間を経て、いよいよ迎える出産のとき。赤ちゃんが元気に生まれてきた後、ママと赤ちゃんをつないでいた「さい帯」は、その役目を終えます。この章では、出産時におけるさい帯の扱いや、感動的なイベントにもなりうる「さい帯カット」の具体的な流れについて詳しく解説します。

さい帯カットのタイミングはいつが良いのか

赤ちゃんが生まれた後、さい帯をいつカットするかについては、いくつかの考え方があります。以前は生まれてすぐにカットする方法が一般的でしたが、近年では、少し時間を置いてからカットする方法が推奨される傾向にあります。これを「遅延さい帯結紮（ちえんさいたいけっさつ）」またはDCC（Delayed Cord Clamping）と呼びます。

さい帯の拍動がまだ続いている間は、胎盤から赤ちゃんへと血液が送られています。この血液には鉄分が豊富に含まれているため、拍動が落ち着くのを待ってからカットすることで、赤ちゃんに多くの血液が移行し、生後数ヶ月間の貧血予防につながると考えられています。世界保健機関（WHO）も、赤ちゃんの状態が良好であれば、生後1分以上待ってからのカットを推奨しています。

ただし、黄疸のリスクがわずかに高まる可能性も指摘されており、赤ちゃんの状態や出産時の状況によっては、すぐに処置が必要な場合もあります。最終的には、産院の方針や出産時の母子の状態をみて、医師や助産師が総合的に判断します。希望がある場合は、事前に健診などで相談しておくと良いでしょう。

	早期さい帯結紮（ECC）	遅延さい帯結紮（DCC）
タイミング	赤ちゃんが生まれてすぐ（通常1分以内）	さい帯の拍動が停止するのを待つ（生後1〜3分後が目安）
メリット	・従来からの一般的な方法 ・緊急時に迅速な対応が可能	・赤ちゃんへの鉄分供給量が増え、貧血を予防する ・特に早産児にとってのメリットが大きいとされる
デメリット・注意点	赤ちゃんが受け取るはずだった血液（鉄分）が少なくなる可能性がある	・生理的な黄疸がやや強くなる可能性がある ・母子の状態によっては実施できない場合がある

希望すればパパもできるさい帯カット体験

立ち会い出産を希望する場合、多くの産院では夫（パートナー）がさい帯をカットする体験ができます。これは、赤ちゃんを家族として迎える最初の共同作業となり、非常に感動的で記念に残るイベントとして人気があります。

さい帯カットの一般的な流れは以下の通りです。

1. 赤ちゃんが生まれた後、医師や助産師がさい帯の2か所を「クランプ」や「鉗子（かんし）」と呼ばれる医療器具でしっかりと挟みます。
2. クランプで挟まれた間の部分を、滅菌された専用のハサミを使ってパパがカットします。
3. カットした後の赤ちゃん側のおへそは、クリップで留められ、数日かけて自然に乾燥し、取れていきます。

実際にさい帯をカットしたパパたちからは、「ゴムのような、グニっとした不思議な感触だった」という感想が多く聞かれます。さい帯には神経が通っていないため、カットする際に赤ちゃんやママが痛みを感じることは一切ありませんので、ご安心ください。

パパによるさい帯カットを希望する場合は、事前に産院で可能かどうかを確認しておくことが大切です。また、緊急帝王切開になった場合や、分娩時の状況によっては安全が最優先されるため、希望していても実施できないケースがあることも理解しておきましょう。

出産後に注目される「さい帯血」とは

出産という大仕事を終えた後、赤ちゃんとママをつないでいた「さい帯（へその緒）」と「胎盤」の中には、実は特別な血液が残っています。これが「さい帯血」です。さい帯血は、出産直後のわずかな時間にしか採取できない、非常に貴重な血液です。なぜこれほどまでに注目されているのでしょうか。その理由は、さい帯血の中に含まれる「造血幹細胞」という細胞にあります。

さい帯血の価値と再生医療への可能性

さい帯血の最大の価値は、血液の源となる「造血幹細胞」を豊富に含んでいる点にあります。造血幹細胞は、私たちの体内で赤血球、白血球、血小板といったあらゆる血液細胞を作り出す能力を持つ、いわば「血液の種」のような細胞です。

この造血幹細胞を移植することで、白血病や再生不良性貧血といった、正常な血液を作れなくなる病気の治療が期待できます。従来、これらの病気の治療には骨髄移植（骨髄バンク）が一般的でしたが、さい帯血移植はドナー（提供者）への身体的負担がなく、拒絶反応のリスクが比較的低いというメリットがあります。

さらに近年では、さい帯血の可能性は血液疾患の治療だけにとどまりません。脳性まひや低酸素性虚血性脳症といった脳の障害に対する治療や、自閉症スペクトラム障害など、これまで根本的な治療法がなかった分野での臨床研究も進められています。さい帯血は、再生医療という未来の医療を切り拓く大きな可能性を秘めているのです。

さい帯血の保管方法 公的バンクと民間バンクの違い

採取したさい帯血を保管する方法には、「公的さい帯血バンク」と「民間さい帯血バンク」の2種類があります。この2つは目的や費用、所有権などが大きく異なるため、違いを正しく理解しておくことが重要です。

どちらのバンクを選ぶかは、さい帯血を「誰のために」「どのような目的で」使いたいかによって決まります。公的バンクへの提供は、費用がかからず誰かの命を救うことにつながる社会貢献です。一方、民間バンクでの保管は、費用はかかりますが、我が子や家族の万が一の事態に備えるための保険と考えることができます。

項目	公的さい帯血バンク	民間さい帯血バンク
目的	第三者への提供（寄付）	赤ちゃん本人や家族が将来使用するため
費用	無料（寄付のため）	有料（申込金や保管料など）
所有権	バンクに帰属する	申込者（本人・家族）が所有する
使用対象	適合する患者であれば誰でも使用可能	原則として赤ちゃん本人や兄弟など血縁者
採取できる産院	提携している産科施設のみ	全国の多くの産科施設で対応可能

民間バンクでのさい帯血保管 ステムセル研究所の例

民間バンクでさい帯血の保管を検討する場合、具体的な選択肢の一つとして「株式会社ステムセル研究所」が挙げられます。ステムセル研究所は、日本国内で民間さい帯血バンク事業を行っている企業の中で、最も多くの保管実績を持っています。

多くの産科施設と提携しており、全国どこでもさい帯血の採取・輸送に対応できる体制を整えているのが特徴です。採取されたさい帯血は、独自のノウハウで細胞を分離・処理した後、マイナス196℃の液体窒素タンクで長期にわたり安全に保管されます。また、保管されたさい帯血を実際の治療に活用するためのサポート体制も充実しており、将来の再生医療への応用も見据えた研究開発にも力を入れています。

民間バンクでの保管を考える際は、ステムセル研究所のような実績のある企業の資料を取り寄せ、サービス内容や費用、保管体制などを詳しく比較検討することをおすすめします。

まとめ

この記事では、赤ちゃんの命綱である「さい帯」について、その役割から出産後の流れまでを解説しました。さい帯は、お腹の赤ちゃんに酸素や栄養を届け、老廃物を排出するという、成長に不可欠な役割を担っています。妊娠中には「さい帯巻絡」などのトラブルが起こることもありますが、多くは無事に出産を迎えます。過度に心配せず、定期健診をしっかり受けて赤ちゃんの状態を確認することが何よりも大切です。

出産時にはさい帯をカットしますが、近年ではそのタイミングが赤ちゃんの健康に与える影響も注目されています。そして出産後、さい帯とその中に含まれる「さい帯血」は、再生医療への応用が期待される貴重なものとなります。さい帯血に含まれる幹細胞は、白血病などの難病治療に役立てられる可能性があるからです。

この貴重なさい帯血は、広く社会に貢献する「公的バンク」への寄付、または「ステムセル研究所」のような「民間バンク」でご自身や家族の未来のために保管するという選択肢があります。さい帯は、妊娠中だけでなく、出産後も赤ちゃんの未来を守るための大切な贈り物となり得るのです。

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